新型出生前検査のそれぞれの考え
2011年。アメリカのシーケノム社によって、新たな出生前検査「NIPT」が発表されました。
従来の出生前検査とは違い手軽に検査できることから、世界中で大きな反響を呼んでいます。
ですが、手軽に検査できる一方で、不安な声もあるようです。
NIPTについて、多くの人はどのように考えているのでしょうか?
目次
NIPTのメリット
NIPTの考えを知るためにも、まずは特徴を理解していなければなりません。NIPTのメリットを紹介します。
母子に負担のない検査法
NIPTの特徴として、検査による母子の負担が少ないことが挙げられます。
従来の出生前検査は「羊水検査」や「絨毛検査」によって行われてきました。方法は、羊水や胎盤に穿刺することで細胞を採取し、それによって検査していたのです。
ですが、穿刺することで、出血や破水などのリスクがあります。300人に1人の割合で流産するともいわれており、決して簡単な検査とはいえませんでした。
一方で、NIPTは母親の血液から検査します。母親の血液を流れるDNAの断片を検査することで、赤ちゃんの染色体疾患を検査するのです。
羊水検査のように、羊水や胎盤を穿刺する必要はないため、胎児への負担はほとんどありません。また、採血自体も数分で終わり、母子ともに検査による負担が少なくてすみます。
安全に短時間で検査ができることが、NIPTの強みといえるでしょう。
高い検査率
NIPTの特徴として、高い検査率も挙げられます。
検査では、それぞれ感度(胎児が染色体異常の際に検査陽性となる確率)と特異度(胎児が染色体異常でない時に検査陰性となる確率)を調べますが、NIPTの検査では、13トリソミーの場合は感度91.7%と特異度99.1%。18トリソミーの場合は感度100%と特異度99.6%。21トリソミーの場合は99.1%と特異度99.9%という、高い検査結果が見込まれます。
つまりは、胎児が21トリソミー(ダウン症候群)の場合、染色体異常の場合は99.1%陽性と表示され、逆に問題が無ければ99.9%の確率で陰性と表示されるのです。
NIPTは、母子への負担が少ないだけではなく、高い検査率によって信用できる検査でもあるのです。
NIPTのデメリット
NIPTは、決してメリットだけではありません。中には、デメリットともいえる問題点もあります。しっかり理解するために、デメリットについて知っておきましょう。
NIPTは非確定検査
高い検査結果を誇るNIPTですが、残念なことに確定検査ではありません。
確定検査とは、「赤ちゃんの疾患の診断を確定させるための検査」のことで、検査結果から断定することのできる検査のことになります。
一方非確定検査とは、「赤ちゃんの疾患の可能性を評価するための検査」のことで、あくまでも可能性を示唆するだけで、結果を断定することはできません。
つまりは、いくらNIPTが優れた検査結果を誇っていたとしても、確定検査である「羊水検査」や「絨毛検査」も行わなければ、本当の結果は分からないということです。
もちろん、NIPTの結果からリスクのある確定検査の有無を決められるため、決して意味が無いわけではありません。
それでも、確定診断ではないということはデメリットといえるでしょう。
NIPTを受診する理由
近年、世界的に増えつつあるNIPT。日本でも検査する人は多くいますが、実際のところNIPTについてどのように考えているのでしょうか?
不安の解消になる
NIPTを受診することで、出産の不安が減ったという話があります。近年、高齢化が進むにつれ、30代後半での妊娠も珍しくはありません。ダウン症を始めとした染色体異常は、年齢が高くなるにつれ発症率も高くなるため、高齢出産だと「生まれてくる子は大丈夫なのか」と不安があるようです。
特に多いのが、第1子がダウン症などの場合です。いくら可愛い我が子とはいえ、障碍を持つ子供を2人以上育てるのは大変な苦労があります。人によっては出産の決意を鈍らせる事もあるほどなのです。
もし、陽性だったとしても中絶を考えることができます。早い段階から胎児の状態を知ることで「産んでも大丈夫か」という不安やリスクを解消できるのです。
出産の心構えが持てる
NIPTを受診する理由には、他にも出産の準備ができるという話もあります。検査結果が陽性であっても産むのなら検査する必要はありませんが、事前に知っているかどうかで大きく違ってくるのです。
障碍児や病気への知識や理解はもちろん、家族や親戚などへの説得も必要になってきます。場合によっては協力してもらう必要もあるからです。
また、必要なら障碍福祉サービスや障害児福祉手当といった、国や県などのサポートも調べる必要もあります。
同じ産むにしても、事前に体制を整えておくことで、無理のない子育てができるようになるのです。
NIPTを受診しない理由
NIPTを受診する一方で、NIPTを受けない人もいます。事前に結果が分かっているほうが対応もできて良さそうに思えますが、なぜNIPTを受診しないのでしょうか?
命の選別をしたくない
NIPTを受診しない理由に、命の選別をしたくないという話があります。多くの場合、陽性と分かった時点で、家族や親戚などからは中絶がすすめられます。子育ての苦労や経済面での負担を考えれば、中絶するのはおかしいわけではありません。場合によっては医師が中絶をすすめることもあるほどです。
ですが、その決定が負担になることがあります。知らなければ無視できたことも、知ってしまうことで自分で決断しなければならないのです。
人によっては優柔不断ともいえなくもないですが、命の選別は人生を左右するほどの重要な選択になります。
知ることで辛く悩むくらいなら、知らない方がいい人もいるのです。
NIPTは親の助けとなるのか?
2013年に日本で実施されて以来、約6万5千件を実施してきました。大学病院を含め、約90以上の施設がNIPTの検査を行っているのです。
世界でも、アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツ、オランダなど様々な国で実施されています。ベルギーでは検査費用の払い戻し、イギリスでは無料で検査できるなど、支援や推奨している国も少なくありません。
実際に検査を体験した人たちは「知れてよかった」「心構えができた」など肯定的な意見も多くあります。日本では陽性だった場合約9割の人が中絶を選ぶそうです。NIPTを推奨する親や医師も多く、今後も出産に不安な親の助けとなるでしょう。
ですが、その一方で疑問視する声もあります。NIPTは気軽にできる事から、「中絶を軽く考えてしまうのではないか」「障碍児に対して否定的な考えを持ってしまうのではないか」と考えられるからです。命の選別をしたくない親はもちろん、様々な団体や医療関係者が意見書や学会などで述べています。
NIPTをするのは間違いではありませんが、その結果からどのように向き合い選択する事こそが、最も大切といえるのかもしれません。
参考文献
- NHKハートネット - 新型出生前検査」とどう向き合う?
- 現代ビジネス - 先天異常、ダウン症の可能性がこれだけ高まる 国民的大問題高齢出産のリスクを考える
- arsvi.com - 「新型出生前診断(NIPT)の拡大実施に反対する意見書」