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学生と新型出生前検査。将来を見据えてどのように考える?

学生と新型出生前検査。将来を見据えてどのように考える?

2011年にアメリカで発表されたNITP(新型出生前検査)。2013年には日本でも臨床実験が行われ、広く普及されてきています。
今は関係ない学生でも、NIPTはいつかは直面するかも知れない問題です。
学生達は、授業を通じてどのように考えたのでしょうか?

青山学院高等部で行われたNIPT体験

2019年1月。東京都渋谷区の青山学院高等学校で、「検査する当事者の気持ちを考える」ためにNIPTの疑似体験授業が実施されました。

授業内容は、「NIPTをした際に陽性になる可能性」「確定診断である羊水検査によって『本当は陽性でなかった』場合の確立」「劣性遺伝病をもって生まれてくる確率」を、それぞれに合わせて、クジやサイコロを使って判定していきます。

「NIPTをした際に陽性になる可能性」の体験では、赤と青のクジが使われました。赤が出たら陽性です。

実際に行ってみると、疑似体験とはいえ「結果がわかる瞬間は辛い」という意見がありました。赤を引いた場合(陽性)は動揺もし、「もっと考えて受けるべきだった」と応えています。

「確定診断である羊水検査によって『本当は陽性でなかった』場合の確率」の体験では、サイコロを振って疑似検査を行います。1が出たら「陰性だった」という判定です。

サイコロを振ってみると、意外と「1」は出ませんでした。実際に「陰性だった」確率はサイコロによる1/6よりも低く、確定される事への重みを実感したのです。

一方で、「1」が出ても疑問を持つ人もいます。「障碍児で無く『よかった』と安心」しましたが、障碍の有無によって「よかった」と判断する事(命の選択)は、果たして良い事なのだろうかと思ったそうです。

「劣性遺伝病をもって生まれてくる確率」では、1~10の数字が書いた紙を2セットづつ箱に入れ、ペアを引いたら「劣性遺伝病」を持って生まれてきます。ただし、今回の体験では生まれてくることを実感してもらうため、初めからペアになるよう準備されています。

もちろん、生徒たちはその事を知らず、ペアの数字を引き当てます。引いた瞬間に、「自分の子供だったら」と思い「涙がこぼれそうだった」と答える学生もいるほど、当り(陽性)だった時のショックは大きかったようです。

最後に、リアルな赤ちゃん人形を取り出し、命の重みを知ったもらった後、「赤ちゃんとお別れしますか」と問いかけます。

学生たちは授業中に答えを出せませんでしたが、少なくとも「障碍があるから」といって簡単に中絶を選択することは、良しとしなかったのです。

ただ、NIPTで検査するという意見は多数挙げられました。結果を知るという不安はあるものの、知ることで「どうするか」を考えることができるからです。また、「リスクを知ったうえで話したい」「リスクがわかっても関係が壊れないような相手と結婚したい」という意見もあり、検査に対して向き合う姿勢が見受けられます。

今回の体験で、陽性反応が出た時の不安は大きかったと思われます。本当の検査で陽性反応が出てしまったら、今回以上の不安とショックを感じてしまうでしょう。

産む産まないの判断はともかく、早いうちから出生前検査について理解し、後悔しない準備をしておくことが大切だといえます。

綺麗ごとではいられない母親の選択

学生達の結論では、「障碍児を産む」ことに賛否両論でした。障碍児を育てる事の大変さは理解しているものの、それでも、障碍があるからといって命の選択をしていいのか疑問に思ったからです。

ですが、実際の当事者となるとそのような綺麗ごとはいってられません。世話だけではなく生活費や学費などの負担もあり、育てる大変さのことを考えるとどうしても中絶を選択してしまいます。

実際に、NIPTの検査で陽性反応が出た場合には、約9割の母親が中絶を選択したそうです。

もちろん、命の選択が悪いわけではありません。「可哀そうだから」と産んでしまっても、経済的負担や時間的余裕が無ければ母子ともに不幸になってしまうからです。

命の選択をしていることは分かってはいるものの、綺麗ごとではいられない結果が、約9割の中絶率だと考えられるでしょう。

また、命の選択の結論が出せない母親もいます。「もし陽性だったら」という不安が残り、「検査を受けない」選択をするのです。

中絶する母親は多いものの、答えの無い問題に悩み苦しんでいるといえるでしょう。

将来的に新型出生前検査はどうなると考える?

将来的に、NIPTは広く普及していくと考えられます。命の選択の悩みはあるものの、リスクなく簡単に検査できるのは、とても便利だからです。

NIPTの臨床研究に参加した施設(NIPTが検査できる認可医院)は、2013年には15施設だったのに対して、2014年には37施設に増加しました。1年間に7,740件の検査が行われ、年々増加してきています。

2018年には、世界の推定検査実施数は1,000万件といわれており、世界的に広まっているのが分かります。

また、将来的にはDNAの組み合わせによって染色体異常が生じない結婚も研究されています。DNAの相性で婚活をする「DNA婚活」というものは既にあり、将来的に、妊娠する前に確認をして「命の選択自体を無くす」考えも出てくるでしょう。

医療技術の発展と共に、障碍児の出産は劇的に少なくなると考えられます。もしかしたら胎児治療によって、出産前に染色体異常の治療ができる可能性もあるかもしれません。

今後の事を考え、NIPTへの理解や知識を学ぶ必要があるでしょう。

子供の時から学ぶ「遺伝教育プロジェクト」

青山学院高等学校の体験実習にゲスト講師として呼ばれた「

長崎大学医学部保健学科遺伝教育プロジェクト

」チームは、「最近の少年犯罪や非行の多発といった人の命を軽んじる傾向に対し、人間の尊厳、命の尊さを伝えることを目的」とした「遺伝教育プロジェクト」の活動も行っています。

簡単に説明すると、遺伝子の多様性と唯一性を学び、障碍児やそれに関わる人達への理解を強める教育研究会です。学生も含めて関心ある人は誰でも参加可能で、NIPTも含めて遺伝への理解を深めることができます。

また、小学校・中学校・高校生向けの啓発資料も用意されており、親子での参加も多く見受けられます。

青山学院高等学校の生徒達のように、NIPTの答えはすぐに見つかるものではありません。幼少期から学べば、それだけ世界を知り考える時間が取れるのです。

近年では、障碍児を普通教室へ通わせる動きも多いです。その時になってから答えを捜すのではなく、幼少期から障碍児と向き合い、染色体異常について理解することが大切だと考えます。

【まとめ】他人事ではなく自分事として考えてみる

今回の体験実習により、学生たちはNIPTの重みについて分かったと思われます。出産前に遺伝子異常が分かる有用性はあるものの、検査前の不安や陽性だと分かった際の負担は重く、事前にどのような結果でも受け止める覚悟や知識が必要となるでしょう。

学生達はすぐに答えが出せなかったように、簡単に考えていい問題ではありません。選択を迫られて出した答えに、後悔をした母親も多いのです。

いつか直面したときのためにも、他人事として軽く考えるのではなく、自分の事として真剣に考える必要があります。

そして、真剣に考える人が増えれば、それだけ子供が育てやすい環境になってきます。障碍児に対してアドバイスやサポートができるよう、知識や理解を深めていくことも大切です。

参考文献