ネオアンチゲンとは具体的に
この記事の概要
ネオアンチゲンは、がん細胞に特有の遺伝子変異から生じる「新しい抗原」(新生抗原)で、通常は正常な細胞には存在しません。これらのネオアンチゲンは、がん細胞内で変異した遺伝子から作られるタンパク質断片(ペプチド)であり、体内の免疫システムによって「異物」として認識される可能性があります。
ネオアンチゲンの具体的な特徴
- アミノ酸の数
- ネオアンチゲンは、一般的に8~12アミノ酸で構成される短いペプチド断片です。これは、主要組織適合性複合体(MHCクラスI分子)に結合してT細胞に提示される際に適した長さです。
- MHCクラスII分子に結合するネオアンチゲンの場合は、もう少し長いペプチド(13~25アミノ酸程度)になることが多いです。
- 変異の位置
- ネオアンチゲンは、がん細胞における体細胞変異によって生じます。これらの変異は、通常のタンパク質のアミノ酸配列の一部が変化しているため、免疫系が新しい「異物」として認識できる特徴を持っています。
- 変異は、塩基の置換、挿入、欠失などの変異に基づいて生じ、これがタンパク質の構造に影響を与え、新しいペプチド断片(ネオアンチゲン)が生成されます。
具体的なネオアンチゲンの例
ネオアンチゲンは患者ごとに異なるため、特定のがん患者で確認された報告例をいくつか紹介します。
- KRAS変異によるネオアンチゲン
- KRAS遺伝子のG12DやG12V変異は、いくつかのがん(特に大腸がんや膵臓がん)で頻繁に見られる体細胞変異です。これらの変異によって生成された変異型KRASタンパク質は、免疫系によって新しいネオアンチゲンとして認識されます。
- 例えば、KRAS G12D変異から生成されるペプチドは、「YVGDGAFGV」といった9アミノ酸のネオアンチゲンペプチドになります。
- TP53変異によるネオアンチゲン
- TP53(がん抑制遺伝子)の変異も多くのがんで見られ、特定の変異がネオアンチゲンの候補となります。TP53のミスセンス変異(例:R175H変異)では、異常なp53タンパク質が生成され、変異部分がネオアンチゲンを形成します。
- この変異から生じるペプチドの例としては、HMTEVVRHC(9アミノ酸)などが報告されています。
- BRAF V600E変異
- BRAF遺伝子のV600E変異は、特にメラノーマや大腸がんなどで頻繁に報告される変異です。この変異によって変異型BRAFタンパク質が生成され、そこからネオアンチゲンペプチドが形成されます。
- 具体的には、BRAF V600E変異によって作られるペプチド「TLDSVVFGGV」(野生型)から「TLDSVVFGGE」(変異型)への変化があり、9アミノ酸のネオアンチゲンがMHCに提示されやすくなります。
- EGFR L858R変異
- EGFR遺伝子のL858R変異は、特に非小細胞肺がん(NSCLC)でよく見られる変異であり、この変異によって生成される異常タンパク質はネオアンチゲンとして機能します。
- この変異から生じるネオアンチゲンのペプチドは、GLDIDPYYI(9アミノ酸)であり、免疫系によって認識される可能性があります。
- HLA-A*02:01特異的ネオアンチゲン
- 一部の研究では、ネオアンチゲンが特定のHLAタイプに強く結合することが報告されています。たとえば、HLA-A*02:01を持つ患者において、特定の変異ペプチドが免疫系に強力な反応を引き起こすことが知られています。
- このHLAに結合するネオアンチゲンの例として、GILGFVFTL(9アミノ酸)があり、HLA-A*02:01を介してがん細胞の特異的な変異を提示し、T細胞の攻撃を引き起こします。
ネオアンチゲンの分類
- ミスセンス変異によるネオアンチゲン
- もっとも一般的なネオアンチゲンは、ミスセンス変異(一つの塩基が置換されることでアミノ酸が変わる変異)によって生じるものです。これにより、元のタンパク質の一部が変異し、異なるペプチドがMHCに提示されます。
- 例:KRAS G12D変異、BRAF V600E変異
- 挿入/欠失変異(INDEL)によるネオアンチゲン
- 挿入や欠失によって、タンパク質のフレームシフトが生じ、新しいアミノ酸配列が生成されることがあります。これもネオアンチゲンの一種です。フレームシフト変異は通常のタンパク質の構造を大きく変えるため、免疫系が異物として認識しやすくなります。
- 融合遺伝子によるネオアンチゲン
- がんに特有の融合遺伝子(例:BCR-ABLのような遺伝子融合)は、異常な融合タンパク質を生成し、それが新しい抗原となることがあります。融合遺伝子から生成されるネオアンチゲンは、非常に特異的であり、免疫療法の有望なターゲットです。
これまでの報告に基づく知見
- メラノーマでは、非常に多くのネオアンチゲンが報告されています。特に、BRAFやNRAS、PTEN変異が頻繁に見られ、それらに由来するネオアンチゲンが免疫療法のターゲットとなることが多いです。
- 肺がんや大腸がんでも、KRAS、EGFR、TP53などの遺伝子変異からネオアンチゲンが形成され、それらが免疫系に認識されやすいことが示されています。
- 近年の研究では、腫瘍の種類に関係なく、高い変異負荷(TMB: Tumor Mutational Burden)を持つがんほどネオアンチゲンの数が多くなる傾向があり、そのため免疫療法が効果的に働く可能性が高いと考えられています。
まとめ
ネオアンチゲンは、がん細胞に特有の遺伝子変異によって生じる新しいペプチドであり、T細胞によって「異物」として認識され、免疫応答を引き起こす可能性があります。これまでに報告されているネオアンチゲンの多くは、KRAS、BRAF、TP53などの遺伝子変異に由来し、8~12アミノ酸の短いペプチドがMHC分子に結合して免疫系に提示されます。ネオアンチゲンは、個別化がん治療や免疫療法の今後の重要なファクターになる可能性があります。