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MSH2遺伝子とは

MSH2遺伝子は、ミスマッチ修復(MMR)遺伝子の一つで、DNAの複製中に発生するエラーを修正する役割を持つがん抑制遺伝子です。MSH2遺伝子がコードするMSH2タンパク質は、DNAの塩基対ミスマッチを修正するためのミスマッチ修復システムの中核を担っており、DNAの安定性を維持します。この遺伝子に変異があると、DNA修復機能が失われ、がんの発生リスクが大幅に増加します。

MSH2遺伝子の役割

  1. DNAミスマッチ修復(MMR):
  • MSH2タンパク質は、MSH6MSH3タンパク質と複合体を形成して、DNAの複製時に誤って組み合わされた塩基対(ミスマッチ)を検出し、これを修正します。この過程を通じて、DNAの複製エラーを修復し、遺伝子の正確な伝達を維持します。
  1. 遺伝的安定性の維持:
  • MSH2が正常に機能することにより、細胞のDNAが正確に修復され、突然変異の蓄積が防がれます。この修復機能が欠損すると、異常な細胞増殖が進み、がんの発生リスクが高まります。
  1. がん抑制:
  • MSH2遺伝子は、がん抑制遺伝子として機能し、ミスマッチ修復を通じてDNAの安定性を確保します。修復機能が失われると、細胞は異常な増殖を始め、がん化する可能性が高くなります。

MSH2遺伝子の変異とがんリスク

MSH2遺伝子の変異は、ミスマッチ修復機能の欠陥を引き起こし、特に大腸がん子宮内膜がんを含むいくつかのがんのリスクを高めます。MSH2遺伝子の変異により引き起こされる代表的な遺伝性がん症候群がLynch症候群です。

1. Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)

  • Lynch症候群は、MSH2や他のミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH6、PMS2)に変異があることで発症する遺伝性がん症候群です。この症候群を持つ人々は、若年で大腸がんや子宮内膜がんを発症するリスクが高く、また、他の種類のがんにもかかりやすくなります。
  • Lynch症候群に関連するがん:
  • 大腸がん: Lynch症候群を持つ人は、生涯で大腸がんを発症するリスクが非常に高いです。
  • 子宮内膜がん: 女性においては、Lynch症候群の関連がんとして子宮内膜がんのリスクが増加します。
  • 胃がん、卵巣がん、小腸がんなど、消化器系や生殖器系のがんのリスクも高まります。

2. 大腸がん

  • MSH2遺伝子変異は、特に大腸がんのリスクを高めます。Lynch症候群を持つ人々では、50歳未満で大腸がんを発症することが多く、定期的な大腸内視鏡検査が推奨されます。

3. 子宮内膜がん

  • MSH2遺伝子変異は、女性において子宮内膜がんのリスクも高めます。Lynch症候群の女性は、子宮内膜がんを発症するリスクが一般よりも高く、早期のスクリーニングが重要です。

MSH2遺伝子変異の診断と予防

MSH2遺伝子の変異は、遺伝子検査によって診断することができます。家族歴に大腸がんやLynch症候群に関連するがんがある場合、遺伝子検査によってMSH2遺伝子の変異が確認されることがあります。

  • 遺伝子検査: MSH2遺伝子の変異を確認するための遺伝子検査は、Lynch症候群の診断やがんリスクの評価に使用されます。検査によって、がんリスクを早期に知り、適切なスクリーニングや予防策を講じることが可能になります。
  • がん予防とスクリーニング: MSH2変異を持つ場合、定期的な大腸内視鏡検査や子宮内膜検査が推奨され、早期発見が可能です。また、予防的な手術やがん発症を抑えるための予防治療が選択されることもあります。

MSH2遺伝子と治療法

MSH2遺伝子の変異によるがんには、免疫療法分子標的療法が効果的であることが示されています。特に、ミスマッチ修復欠損(MMR欠損)を持つがんに対して、免疫チェックポイント阻害薬が有効です。

  • 免疫チェックポイント阻害薬: MSH2変異を持つがん(ミスマッチ修復欠損がん)は、免疫チェックポイント阻害薬に対する感受性が高いことが報告されています。これらの薬剤(例えば、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)ニボルマブ(オプジーボ))は、免疫システムを活性化させ、がん細胞を攻撃する治療法です。
  • 個別化医療: MSH2遺伝子変異を持つ患者には、遺伝子情報に基づく治療法が適用され、最適な治療戦略が取られることがあります。

まとめ

MSH2遺伝子は、DNAの複製時に生じるエラーを修復するミスマッチ修復(MMR)システムの中心的な役割を担う遺伝子です。MSH2の変異は、Lynch症候群と関連し、大腸がん子宮内膜がんなどのリスクを大幅に高めます。MSH2変異を持つ患者には、遺伝子検査を通じて早期にリスクを確認し、定期的なスクリーニングや予防的治療が推奨されます。また、免疫チェックポイント阻害薬を用いた新しい治療法も、MSH2変異に関連するがん治療に有望な選択肢となっています。