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MRE11遺伝子とは

MRE11遺伝子は、DNA修復に関わる重要な遺伝子で、MRE11Aタンパク質をコードしています。このタンパク質は、DNAの二重鎖切断(DSB)を修復する際に中心的な役割を果たし、細胞の遺伝情報を安定に保つために不可欠です。MRE11Aは、MRN複合体(MRE11、RAD50、NBS1からなる複合体)の一部を形成し、この複合体がDNA損傷応答において重要な機能を担っています。

MRE11遺伝子の役割

  1. DNA二重鎖切断(DSB)の修復:
  • MRE11Aタンパク質は、MRN複合体の一部としてDNAの二重鎖切断を検知し、修復を開始します。DNAの二重鎖切断は放射線や化学物質、細胞のストレスなどによって引き起こされる重大な損傷であり、この損傷が修復されないと、遺伝子変異や細胞の死を招き、がんの発生リスクが高まります。
  1. ホモロガス組換え修復(HRR):
  • MRE11Aは、二重鎖切断を修復するホモロガス組換え修復(HRR)に関与します。この修復プロセスは、正常なDNA配列を参照しながら正確に損傷を修復するため、DNAの安定性維持に不可欠です。
  1. DNA損傷応答(DDR)シグナル伝達:
  • MRE11Aは、DNA損傷応答の早期段階で重要な役割を果たします。損傷が発生すると、MRE11Aを含むMRN複合体がDNA二重鎖切断部位に結合し、ATMタンパク質(もう一つの重要なDNA修復タンパク質)を活性化させ、修復を促進します。
  1. 細胞周期の調整:
  • MRE11Aは、DNA損傷が検知された際に細胞周期を停止させ、修復が完了するまで細胞分裂が進行しないようにします。これにより、損傷を持つDNAが複製されるのを防ぎます。

MRE11遺伝子の変異とがんリスク

MRE11遺伝子の変異は、DNA修復機能に欠陥をもたらし、がんの発生リスクを高めます。特に、MRE11変異は乳がん大腸がん前立腺がんなど、いくつかのがんに関連しています。

1. がんとの関連性

  • 乳がん: MRE11遺伝子の変異は、DNA修復機能の低下を引き起こし、乳がんリスクを高めることが知られています。
  • 大腸がん: MRE11は、ミスマッチ修復機能(MMR)に関連する遺伝子とも相互作用し、大腸がんのリスクを増加させる可能性があります。
  • 前立腺がん: MRE11の機能不全は、前立腺がんの進行と関連することが示されています。DNA修復機能が損なわれることで、がん細胞の増殖が促進されます。

2. アタキシア・毛細血管拡張症様疾患(Ataxia-Telangiectasia Like Disorder, ATLD)

  • ATLDは、MRE11遺伝子の変異によって引き起こされる稀な遺伝性疾患です。この病気は、小脳失調(歩行や運動の不調)、毛細血管拡張症、および免疫不全を特徴とし、患者はがんのリスクも増加します。ATLDは、DNA修復の欠陥が原因で、細胞の増殖と分裂に問題を引き起こします。

MRE11遺伝子変異の診断と治療

MRE11遺伝子の変異は、遺伝子検査によって診断されます。特に家族性のがんやアタキシア・毛細血管拡張症様疾患の患者には、MRE11を含むDNA修復遺伝子の検査が行われることがあります。

  • 遺伝子検査: MRE11の変異があるかどうかを確認するため、がんのリスク評価や家族性がんの診断に遺伝子検査が利用されます。
  • がん予防と管理: MRE11変異を持つ人には、定期的なスクリーニングが推奨され、がんリスクの早期発見や予防的治療が行われることがあります。

治療法の展望

  • DNA修復欠損に対する治療: MRE11変異によるDNA修復機能の低下を利用して、特定のがんに対するPARP阻害剤などの治療法が開発されています。これらの薬剤は、DNA修復機能が低下したがん細胞を標的にして殺すことができ、がんの進行を抑える効果があります。
  • 免疫療法: DNA修復の欠陥を持つがん細胞は、免疫チェックポイント阻害薬による治療にも感受性が高いことが示されています。これにより、がん治療の新しい選択肢として、MRE11変異を持つがん患者への免疫療法が期待されています。

まとめ

MRE11遺伝子は、DNAの二重鎖切断修復に重要な役割を果たす遺伝子で、MRN複合体の一部として細胞の遺伝的安定性を維持しています。MRE11遺伝子の変異は、乳がんや大腸がん、前立腺がんのリスクを高めるほか、アタキシア・毛細血管拡張症様疾患(ATLD)などの遺伝性疾患にも関連しています。遺伝子検査やDNA修復機能を標的とした治療法が進展しており、MRE11変異に対する個別化医療ががん治療において期待されています。