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MLH1遺伝子とは

MLH1遺伝子は、ミスマッチ修復(MMR)遺伝子の一つで、DNAの複製中に生じるエラーを修復する役割を持つがん抑制遺伝子です。MLH1遺伝子がコードするMLH1タンパク質は、DNAの塩基対ミスマッチを修正するためのミスマッチ修復システムの一部であり、細胞の遺伝情報の安定性を維持します。この遺伝子に変異が起こると、DNAの修復が正常に行われなくなり、がんのリスクが高まります。

MLH1遺伝子の役割

  1. DNAミスマッチ修復(MMR):
  • MLH1遺伝子がコードするMLH1タンパク質は、DNAの複製中に起こる誤った塩基対(ミスマッチ)を修正するために働きます。ミスマッチ修復システムは、DNAの誤りを検出し、誤った塩基を正しいものに置き換えることで、遺伝情報の正確な伝達を保証します。
  1. 遺伝的安定性の維持:
  • MLH1が正常に機能することで、細胞のDNAが複製エラーから守られ、遺伝情報の安定性が保たれます。この修復が行われないと、遺伝子変異が蓄積し、がんの発生リスクが増大します。
  1. がん抑制:
  • ミスマッチ修復が機能しない場合、細胞は異常に増殖することがあり、最終的にがん細胞となる可能性があります。MLH1遺伝子は、がん化を防ぐ役割を果たす重要ながん抑制遺伝子です。

MLH1遺伝子の変異とがんリスク

MLH1遺伝子の変異は、ミスマッチ修復機能の欠陥を引き起こし、特に大腸がん子宮内膜がんのリスクを高めます。MLH1遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性がん症候群として、Lynch症候群がよく知られています。

1. Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)

  • Lynch症候群は、MLH1遺伝子や他のミスマッチ修復遺伝子(MSH2、MSH6、PMS2)に変異があることによって引き起こされる、遺伝性のがん症候群です。この症候群を持つ人々は、特に大腸がん子宮内膜がんのリスクが高く、一般の人に比べて若年でがんを発症する傾向があります。
  • Lynch症候群に関連するがん:
  • 大腸がん
  • 子宮内膜がん
  • 卵巣がん
  • 胃がん
  • 小腸がん
  • 膵臓がん
  • 腎盂・尿管がん

2. 大腸がん

  • MLH1遺伝子の変異は、特に大腸がんのリスクを大幅に増加させます。Lynch症候群を持つ人々は、50歳未満で大腸がんを発症することが多く、早期のスクリーニングが重要です。

3. 子宮内膜がん

  • MLH1遺伝子の変異は、女性において子宮内膜がんのリスクも大幅に高めます。Lynch症候群の女性は、生涯にわたって子宮内膜がんを発症するリスクが一般の女性に比べて高く、これも早期の検査が推奨される理由の一つです。

MLH1遺伝子変異の診断と予防

MLH1遺伝子の変異は、遺伝子検査によって診断することができます。特に、家族歴に大腸がんやLynch症候群に関連するがんがある場合、遺伝子検査を通じてMLH1遺伝子の変異が確認されることがあります。

  • 遺伝子検査: MLH1遺伝子の変異は、Lynch症候群の診断やがんリスクの評価に使用されます。検査によって、がんリスクがあるかどうかを早期に知り、適切なスクリーニングや予防策を講じることができます。
  • がん予防と早期発見: MLH1変異がある場合、定期的な大腸内視鏡検査や子宮内膜検査などが推奨され、早期のがん発見や予防的な措置が取られることがあります。がんリスクが高いと診断された場合、予防的手術や早期治療が検討されることもあります。

MLH1遺伝子と治療法

MLH1遺伝子の変異に基づくがん治療には、特定の分子標的療法や免疫療法が利用されています。特に、ミスマッチ修復欠損(MMR欠損)が確認されたがんでは、免疫チェックポイント阻害薬が有効であることが示されています。

  • 免疫チェックポイント阻害薬: ミスマッチ修復に欠損があるがん(MLH1変異を含む)は、ペンブロリズマブ(キイトルーダ)やニボルマブ(オプジーボ)などの免疫チェックポイント阻害薬に対して感受性があることが報告されています。この治療は、がん細胞を免疫系が攻撃するように働きかけるもので、特に進行がんや転移性がんに対して効果が期待されます。
  • 個別化医療: MLH1変異を持つがん患者には、がんの種類や進行状況に基づいて治療を最適化するために、遺伝子情報に基づく個別化医療が適用されることがあります。

まとめ

MLH1遺伝子は、DNAミスマッチ修復システムの一部として、細胞の遺伝情報の安定性を維持する重要な役割を担っています。この遺伝子に変異があると、DNA修復が正しく行われず、Lynch症候群などの遺伝性がん症候群のリスクが高まります。特に大腸がん子宮内膜がんのリスクが増加しますが、遺伝子検査やスクリーニングによる早期発見が可能です。MLH1変異を持つがん患者には、免疫療法などの新しい治療法が効果的である場合もあり、個別化医療の重要性が増しています。