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「選択的人工妊娠中絶」は法的に規制されるべきか否か

「選択的人工妊娠中絶」は法的に規制されるべきか否か

「選択的人工妊娠中絶」は法的に規制されるべきなのでしょうか。日本において中絶は厳密には違法ではないものの、実質グレーゾーンとして扱われています。
この記事では「選択的人工妊娠中絶」を、日本と海外の事情を踏まえて考えていきます。

日本で「選択的人工妊娠中絶」が行える条件

日本において選択的人工妊娠中絶を行える条件は母体保護法によって定義付けられており、第一章の第二条に「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること」とあります。

また、母体保護法は人工妊娠中絶が行える条件を以下のように定められています。

①妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの

②暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

これらに加え、医師の認定、夫の同意(独身者の場合不要)、妊娠22週間以内という条件が設けられていますが、妊娠期間以外は実質的に機能していません。

なお、日本では1907年に「堕胎罪」が制定され、現在まで残り続けているが前述の母体保護法によりそれが適用されることがほぼないのも現状です。

日本の選択的人工妊娠中絶に関する議論

冒頭で出生前検査が中絶をめぐる問題に変化をもたらしたと述べました。

出生前検査の登場は、胎児が病気を持っていた場合、母体保護法に定められている「身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある」という条件を満たすことを可能にしたのです。

これにより堕胎罪は実質機能していない法となりました。

そして、それに加え母体保護法には妊婦の状態に関する条項はあっても、胎児に関する文言がないことも問題視されています。

これに付け加えておくと、日本において胎児に関する状態に関する条項を加えようという議論は、母体保護法の前身である優生保護法の時代に行われました。

その当時は「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有している恐れ が著しいと認められるもの」という文言が優生保護法に書き加えられそうになったのですが、政治や民間の場で巻き起こった様々な議論の末、胎児に関する議論は未記入のまま今に至ります。

このように、日本において中絶は厳密には違法ではないものの、実質グレーゾーンであり、堕胎罪が形骸化していることもあってその是非に関する意識も希薄な状態なのです。

海外における「中絶」をめぐる議論や規制

ここで異なる視点を獲得するために、海外における「中絶」をめぐる問題に関する議論や規制の一例を見ていきましょう。

まずは以下の画像をご覧になってください。

世界各国の中絶に関する規制レベル

出典:The World’s Abortion Laws

このマップは世界各国の中絶に関する規制レベルを色分けしたもので、それぞれの色は以下のことを示しています。

  • 赤茶…全面的に禁止されている
  • 赤…女性の生命に危険が及ぶ場合は中絶が可能
  • 黄色…母体の健康を害する場合は中絶が可能
  • 緑…社会的、経済的な事情を鑑みた上での中絶が可能(日本もこの区分)
  • 青…要請に応じて中絶をすることが可能(地域により差はある)

これらのマップを見ると、中絶の厳しい法規制は経済的に発展途上の国に多いことが伺えます。

しかし、世界における中絶をめぐる諸問題は刻一刻と変化していますので、以下の項目からは各国で巻き起こっている議論の一部をご紹介していきます。

アメリカにおける中絶問題

アメリカにおいては50年以上に渡って反中絶の運動が行われてきましたが、政治的な情勢の変化により2019年にいくつもの州で中絶禁止法が制定されました。

その中の一つであるアラバマ州でアメリカでも最も厳しい中絶禁止法が制定され、母体に重大なリスクがある場合を除いて中絶が違法行為となっています。

これは強姦などの犯罪行為において母親が妊娠した場合も適用されるため、批判されることも多い事例です。

このようにアメリカでは今、宗教的、政治的思惑がいくつも重なり中絶に関する運動が盛んになっています。

ヨーロッパにおける中絶問題

ヨーロッパにおいては中絶に対する法的な規制はあまり厳しくありません。

北アイルランドやポーランドなど、一部の国では未だ条件が厳し目でありますが、それでも全体を通して見ると全面的に中絶を禁止している国はほぼありません。

ただし、例外としてマルタのみ中絶行為が禁じられていて、中絶を行った医師は18ヶ月から4ヶ月の刑に処されます。

また文化レベルでの議論は度々巻き起こっており、2018年にはローマ法王が「中絶は殺し屋を雇うようなもの」と発言し話題になりました。

イランにおける中絶問題

イランにおいては長らく母親が生命の危機に瀕している場合を除き人工妊娠中絶が禁止だったのですが、2005年に胎児と母の健康上の事情を鑑みて中絶が行える「治療的人工妊娠中絶法」が制定されました。

イランは約9割の国民がシーア派の信徒であり、その生命倫理もイスラーム法に基づくものでした。

イスラーム法では厳密には中絶は禁止されていないものの、生命の神聖性、親が子を殺すべきでないという2点がコーランに示されているとのことから「中絶は禁止である」という解釈がなされてきました。

しかしながら、非合方法な中絶手術による女性の健康侵害が深刻化したことを受けて、医学的根拠、母親の苦痛は回避されるべきというイスラーム法の解釈を踏まえた上で上記の法が制定されたという背景があります。

「中絶」の法規制の議論に先んじて我々が考えるべきこと

子供が疾患を持っていた場合の中絶に関する意見を一つ紹介すると、アメリカの法哲学者ロナルド・ドゥオーキンの物があり、彼は障害による中絶は認められるべきだと主張しています。

彼の意見を要約すると、「生まれてくる赤ん坊が重い障害を持つことが判明した場合、本人および母親の人生における挫折が運命付けられているのだから、中絶は推奨されるべき。また、これらはすでに生まれてきている障害者の権利を害する物ではない」とのことです。

これに対して「生まれてくる赤ん坊が障害を持っていたとしても、本人やその家族の人生が挫折するとは言い切れない」「障害児の中絶を規制することが既に生まれている障害者への侮辱ではないと、ドゥオーキンに主張する権利はない」とする批判もあります。

これはどちらの意見も肯ける部分がありますが、どちらを取るにしても母親は精神的あるいは経済的な負担を被るため、日本の場合に置き換えてみてもより充実した社会的な支援が必要とされることは想像に難くありません。

まとめ

ここまでご紹介してきた情報をもとに日本の中絶をめぐる諸問題に関して一つ言えることは、母体保護法において胎児に関する条項を追加するべき、ということではないでしょうか。

もちろん、「特定の病気が発覚した場合はどの場合も中絶可能」とするのではなく、その線引きに関しては大いに議論が為されるべきだと思いますし、社会的な支援制度ももっと充実するべきだという主張をして、記事のおわりとさせていただきます。

今回の記事が、少しでも皆さんの考えるきっかけになれば幸いです。

参考文献