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Angelman 症候群の原因と症状、臨床診断および治療薬の情報

Angelman 症候群の原因と症状、臨床診断および治療薬の情報

Angelman症候群は、まれな遺伝子疾患で、難病指定を受けています。
遺伝子が正常または異常かどうかを調べる遺伝子検査によって、UBE3Aと呼ばれる遺伝子を調べると、神経細胞内で正常な機能を失っていることが原因とされています。
根本的な治療薬は未だ無く、海外にて開発が進んでいます。

Angelman 症候群とは

Angelman症候群は、およそ15,000人中1人くらいに認められる疾患で、日本では3,000人を超える患者さんが確認されている難病の1つに指定され、まれで生涯にわたる遺伝性疾患とされています。本疾患の発症要因としては、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A)遺伝子の異常(母方由来15番目の染色体の異常(q11-q13の欠失)、父性片親性ダイソミー(15番目の染色体)、刷り込み機構の変異、UBE3Aの変異)によって引き起こされることが知られています。症状としては、GABAの取り込みの増加と持続性抑制の低下に関連する、行動、学習、口頭でのコミュニケーション、運動能力、睡眠に深刻な障害が認められます。さらに、Angelman 症候群に対して既に承認されている医薬品や治療法、また確立された医薬品や治療法が無く、対症療法にとどまっています。

Angelman 症候群の原因

Angelman 症候群の原因は、UBE3A遺伝子の機能が失われることで、神経の細胞のコミュニケーションが破綻することにあるとされています。この疾患では行動面や精神面において様々な症状を認めますが、UBE3A遺伝子の機能が失われ、緊張抑制が損なわれることにつながることが症状に現れるとされています。UBE3A遺伝子は、ヒトにおいては15番染色体に局在しており、神経細胞内においては、ゲノム刷り込みによって母方に由来している染色体から発現することがわかっています。この特徴的な発現機構は、ノンコーディングRNA(ncRNA)と呼ばれる遺伝子の転写を制御する分子が、母方の染色体では抑制される一方、父方の染色体においては発現していることに加え、神経細胞以外の細胞においてはこのncRNAが十分に機能せず、神経細胞においては母方由来染色体のUBE3Aが発現します。すなわち、以下に示すようなパターンでは、神経細胞において正常型のUBE3A遺伝子が発現せず、Angelman 症候群を発症すると考えられています。

  • 母方由来染色体のUBE3A(15q11-q13)に欠失が認められる場合
  • 父性片親性ダイソミー(15番染色体)の場合(15番染色体がともに父方由来=神経細胞特異的に発現するはずの母方の染色体のUBE3Aを受け継げていない)
  • 刷り込み機構に変異(前述の刷り込みと呼ばれる発現機構が阻害される)が認められる場合
  • UBE3A遺伝子自体に変異が認められる場合

臨床的に認められるAngelman 症候群の症状

Angelman症候群は、新生児ではほとんどが症状を認められず、発育の遅延が初めて確認されるのは生後6か月 頃とされています。以下に示すようなAngelman症候群特有の臨床徴候は1歳を超えるまでは顕著に現れないため、すぐにはこの病気であることに気付かないこともあります。また、前述のUBE3A遺伝子に及ぼす影響の原因(欠失しているかそうでないか)によっては、現れる症状が異なることも知られています。

Angelman 症候群に頻繁に認められる症状

  • 出生前や分娩経過、出生時の頭の大きさは正常、大きな先天性の奇形は認められない
  • 採血検査による代謝機能、血液学的項目、その他の臨床検査値は正常である
  • CTあるいはMRIによる画像診断では、脳の構造は正常である。脳におけるミエリン形成の異常や、皮質に軽い萎縮を認める場合もある
  • 発達遅滞(退行を伴わない)
  • 発育遅滞 (生後12か月頃 までに現れ、経過は重度)
  • 言語障害(最小限の言葉の使用、あるいは有意語を認めない。感覚型の非言語コミュニケーション能力および受容性言語能力が高いものの、運動型の表出性言語能力は低い
  • 運動障害、平衡感覚の障害、正常に歩けない、四肢の振戦が認められたりすることが多い
  • 特異性を示す行動(例:しばしば声をたてて笑う、笑みを浮かべる、愉快なふるまいを示す、手を叩くなどの行動が増える、多動、短い集中力)

8割以上の患者に認められる所見

  • 頭のサイズの成長が遅れることで、2歳までに絶対(相対)的小頭症が認められる
  • 多くが3歳以前に認められる、痙攣発作
  • 本疾患に特異的な脳波の異常(振幅の大きい遅棘徐波複合として観測される)

8割未満の患者に認められる所見

  • 扁平化した後頭部、後頭動脈溝
  • 舌の癖(舌の突出や舌を弄る癖)およびそれに伴う吸啜・嚥下障害
  • 乳児期に認められる哺乳障害、筋肉の緊張が低下する
  • 上顎前突、幅の広い口、歯間が広く開く、斜視などの特徴的な顔貌
  • よだれが多く出たり、口にくわえたり、過度に噛んだりする行動が認められる
  • 皮膚の色素が欠乏する(血のつながった親類に比し、髪や眼の色が薄い:欠失が確認されている場合にのみみられる)
  • 深部腱反射が亢進する(下肢)
  • 歩行中によくみられる姿勢(腕を挙げ、屈曲させる)
  • 開脚歩行および外向きの足首(足首を回内・外反させる)
  • 熱への感受性が高くなる
  • 睡眠覚醒リズムに異常を示し、睡眠を必要とすることが少なくなる
  • 水、ビニール、紙(カサカサ等の音がなるもの)などへの強い興味を示す
  • 食べ物に関して異常な行動を示す
  • 年長頃の肥満(遺伝子が欠損しているタイプには少ない)
  • 側弯症
  • 便秘

Angelman 症候群に対する臨床診断と検査

Angelman 症候群の責任遺伝子はUBE3Aであることがわかっているため、UBE3A遺伝子を含んだ領域の遺伝子を検査することによって、臨床的に診断が下されます。日本では、以下を診断基準としています。ただし、まだわかっていないだけで、未知の遺伝子等がUBE3Aに影響を及ぼし、その結果Angelman 症候群を引き起こす可能性もあり、必ずしも下記の条件を満たさないケースもあることに注意が必要です。

「15番染色体において、15q11.2-15q11.3領域に欠失・片親性ダイソミー・刷り込み機構の異常のいずれかを認める、または責任遺伝子(UBE3A遺伝子等)に変異を認め、下記の症状3及び4を伴う場合、Angelman 症候群としての確定診断が下される。」

 Ⅰ.主要臨床症状

  • 1.容易に引き起こされる笑い
  • 2.歩行に失調をきたす
  • 3.Angelman症候群に特徴的な顔貌が認められる(下顎の突出が含まれる)
  • 4.精神の発達が遅れる
  • 5.てんかんの発作

Angelman 症候群への効果が期待される治療薬

Angelman 症候群に対する治療薬は未だ無く、前述した症状に対する対症療法のみしかありませんが、近年、海外において治験が進められ、2種の治療薬の候補が出てきています。1つは、OV101(gaboxadol)という経口投与薬で、γ-アミノ酪酸 (γ-aminobutyric acid, GABA)A受容体に拮抗するメカニズムによって、Angelman 症候群の症状が現れる原因のGABAの取り込みの増加と持続性抑制の低下を抑える効果が期待されています。2020年現在、米国にて治験のフェーズ3まで進んでいるだけでなく、米国において優先的に審査されるファストトラックプログラムに登録されているため、2021年以降、初のAngelman 症候群の治療薬として承認が降りる可能性が期待されています。もう1つは、GTX-102という髄腔内投与薬で、Angelman 症候群の責任遺伝子であるUBE3A自体の機能を抑制するメカニズムによって、Angelman 症候群を発症しないようにする効果が期待されています。こちらは2020年に北米や欧州で治験が開始したばかりなので、承認はしばらく先になると考えられていますが、OV101と同様のプログラムに登録されており、承認が期待されています。

参考文献