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T細胞受容体(TCR)療法とは

T細胞療法は、患者自身の免疫系を利用してがん細胞を攻撃する治療法の一種であり、特にT細胞受容体(TCR)療法はその中でも革新的な治療法として注目されています。TCR療法では、ネオアンチゲン(がん細胞に特有の新しい抗原)を認識するT細胞を体外で増やし、体内に戻してがん細胞を標的に攻撃させる仕組みを利用しています。

TCR療法のプロセス

  1. 患者のT細胞の収集: まず、患者の血液からT細胞を収集します。このT細胞は、体内で異常な細胞(がん細胞など)を攻撃する役割を持つ免疫細胞です。
  2. T細胞の遺伝子改変: 収集したT細胞にT細胞受容体(TCR)を追加します。このTCRは、患者のがん細胞に特異的に発現されるネオアンチゲン(がん細胞に存在する異常なタンパク質由来の抗原)を認識するように設計されています。遺伝子工学技術を用いて、患者のがん細胞が提示するネオアンチゲンを認識できるようにT細胞を改変します。
  3. 体外でT細胞を増殖: 改変したT細胞を体外で大量に増殖させます。この過程では、数百万から数十億のT細胞にまで増やし、十分な数のがん細胞を攻撃できる状態にします。
  4. 患者へのT細胞の再投与: 増殖させたT細胞を患者の体内に戻します。戻されたT細胞は、患者のがん細胞に発現しているネオアンチゲンを認識し、がん細胞を攻撃します。
  5. T細胞ががん細胞を攻撃: 体内に戻されたT細胞は、がん細胞に特異的に結合し、攻撃を行います。このプロセスで、がん細胞を破壊することが期待されます。

TCR療法の特徴

  1. ネオアンチゲン認識の特異性: TCR療法では、ネオアンチゲンというがん細胞に特異的な抗原を認識するため、がん細胞を選択的に攻撃します。正常な細胞を攻撃するリスクが低いため、副作用が少ない治療法として期待されています。
  2. パーソナライズド治療: ネオアンチゲンは患者ごとに異なるため、TCR療法は個別化医療(パーソナライズド治療)として、患者に合わせた最適な治療を提供することが可能です。
  3. 広範な適応範囲: TCR療法は、様々なタイプのがんに対して応用可能です。乳がん、肺がん、皮膚がん、前立腺がんなど、多くのがん種に対して研究が進められています。

TCR療法と他の免疫療法の違い

  • CAR-T療法との違い: CAR-T療法もT細胞を利用したがん治療法ですが、CAR-T細胞は腫瘍表面の特定の抗原(例えばCD19など)をターゲットにします。一方で、TCR療法は、がん細胞の内部のネオアンチゲンを認識します。これにより、TCR療法はCAR-T療法が適応しにくい固形がんにも有効であるとされています。

TCR療法の課題

  1. がんの多様性: がん細胞の中には、変異が少なくネオアンチゲンが少ないものもあります。これにより、ネオアンチゲンを効果的にターゲットにできない場合もあります。
  2. 免疫逃避: がん細胞は、免疫システムからの攻撃を回避するために、ネオアンチゲンを発現しなくなるなどの免疫逃避機構を持つことがあります。
  3. 製造コストと時間: TCR療法は、患者ごとに個別に設計されたT細胞を体外で増殖させる必要があるため、治療プロセスが複雑で高コストになりやすいという課題があります。

まとめ

TCR療法は、ネオアンチゲンを認識する特異的なT細胞を用いて、がん細胞を選択的に攻撃する革新的な個別化免疫療法です。特に、CAR-T療法では難しい固形がんに対しても有望であるとされていますが、免疫逃避やコストなどの課題も存在します。