BRCA1 / BRCA2関連症候群
BRCA1およびBRCA2遺伝子は、乳がんや卵巣がんのリスクに深く関連している遺伝子であり、がん抑制遺伝子としての役割を果たします。これらの遺伝子に変異が生じると、DNA修復機能が損なわれ、がんのリスクが大幅に増加します。以下に、それぞれの遺伝子の詳細と、関連するがんリスクについて詳しく説明します。
1. BRCA1(Breast Cancer 1)遺伝子
- 遺伝子の役割:
- BRCA1は、がん抑制遺伝子として知られ、DNAの二重鎖切断を修復する「ホモロガス組換え修復(HRR)」というプロセスに重要な役割を果たしています。この修復機能によって、細胞のDNAに損傷が生じたときにそれを修正し、細胞の遺伝情報を保護します。また、BRCA1は、細胞分裂の際にDNA損傷を検出し、細胞周期を制御する役割も持っています。
- BRCA1が機能しない場合、DNA損傷が蓄積し、細胞が制御不能な増殖を始め、がんが発生する可能性が高まります。
- 関連するがんリスク:
- 乳がん: BRCA1遺伝子に変異がある女性は、生涯で乳がんを発症するリスクが45〜65%に達することが報告されています。
- 卵巣がん: BRCA1変異を持つ女性の卵巣がんリスクは、生涯で39〜46%とされており、非常に高いです。
- その他のがん: 前立腺がんや膵臓がんのリスクも高まるとされています。BRCA1変異は、男性の前立腺がんリスクの増加とも関連しています。
- 遺伝形式:
- 常染色体優性遺伝として遺伝し、BRCA1の変異を親から受け継いだ場合、発がんリスクが高まります。特に、家族内に乳がんや卵巣がんの既往がある場合は、遺伝カウンセリングや検査が推奨されます。
2. BRCA2(Breast Cancer 2)遺伝子
- 遺伝子の役割:
- BRCA2もBRCA1と同様、がん抑制遺伝子としてDNAの二重鎖切断を修復するホモロガス組換え修復に関与します。BRCA2は、特にDNA修復プロセスでの役割が強調され、DNA損傷が発生した際に細胞が正常な機能を回復するための重要な役割を担います。
- BRCA2も、細胞周期の調整を行い、DNA損傷の修復が不十分な場合に細胞死(アポトーシス)を促進します。
- 関連するがんリスク:
- 乳がん: BRCA2遺伝子変異を持つ女性の乳がんリスクは、生涯で40〜57%とされています。BRCA1と同様、非常に高いリスクがあります。
- 卵巣がん: BRCA2変異を持つ女性の卵巣がんリスクは、生涯で17〜23%です。BRCA1ほどではありませんが、やはりリスクは増加しています。
- 前立腺がん: BRCA2変異を持つ男性は、前立腺がんのリスクが高くなります。BRCA2変異は、特に若年発症型前立腺がんと関連しています。
- 膵臓がん: BRCA2変異は膵臓がんリスクをも高めることが知られています。また、乳がんや卵巣がんの既往歴のある家系では、膵臓がんのリスクにも注目する必要があります。
- 遺伝形式:
- BRCA2も常染色体優性遺伝で遺伝します。家族内でBRCA2変異が確認された場合、親族も検査を受けることが推奨されます。
3. BRCA1/BRCA2の共通点
- がんの予防・治療:
- BRCA1またはBRCA2の変異があると確認された場合、定期的ながん検診や、予防的外科手術(予防的乳房切除や予防的卵巣摘出)が推奨される場合があります。これらの手段により、がん発症リスクを大幅に低減できます。
- さらに、近年ではBRCA1/2の変異を持つがん患者に対して、PARP阻害薬という新しいタイプの薬剤が有効であることが示されています。PARP阻害薬は、DNA修復機能に欠損があるがん細胞を標的とし、がんの進行を抑える効果があります。
- 遺伝カウンセリングの重要性:
- BRCA1/2変異は遺伝性があるため、家族内に乳がんや卵巣がんが多い場合、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。カウンセリングを通じて、がんリスクの理解や適切な検査・予防措置が取られることが重要です。
- 男性への影響:
- BRCA1/2変異は女性だけでなく、男性にも影響します。特に前立腺がんのリスクが増加するため、家族歴に基づく検査や早期発見のためのスクリーニングが重要です。また、男性乳がんや膵臓がんのリスクも高まるため、注意が必要です。
まとめ
BRCA1およびBRCA2は、乳がんや卵巣がんの高リスク遺伝子としてよく知られており、変異があるとこれらのがんにかかる可能性が大幅に増加します。BRCA1/2の変異は、DNA修復機能に直接影響を与えるため、がん発症の要因として非常に重要です。予防や早期発見のために、BRCA遺伝子検査と遺伝カウンセリングが推奨され、適切な治療や予防措置を取ることで、リスクを軽減することが可能です。