NIPTと遺伝カウンセリング
NIPTを安心して受けるためには、NIPTを受ける前や検査を受けたあとの心理的フォローが大切です。
そこで重要な役割を担うのが「遺伝カウンセリング」を行う専門医や専門職の人々です。
目次
NIPTの遺伝カウンセリングとは何か
NIPT(新型出生前診断)の実施は「臨床研究」として行われていますが、日本医学会と日本産科婦人科学会で認定登録された施設や認可外の施設で受けることができます。
NIPTを安心して受けるためには、NIPTを受ける前や検査を受けたあとの心理的フォローが大切です。
そこで重要な役割を担うのが「遺伝カウンセリング」を行う専門医や専門職の人々です。
今回の記事では、遺伝カウンセリングとは何か、その役割や遺伝カウンセリングの実際について解説します。
遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングとは、カウンセラーが行うカウンセリングの一種です。
NIPTに関わる専門的な情報を伝えたり、相談を受けたりすることで、クライアントがより自律的な選択ができるよう支援を行います。
「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」では、NIPTの前後に検査に対する十分な説明と遺伝カウンセリングを行うことが強調されており、そこで子どもの障害と個性についての認識、染色体異常についての情報、NIPTの結果の捉え方、次の検査として羊水検査に関する説明などが行われます。
遺伝カウンセリングを受ける上で大切なこと
それでは、実際に遺伝カウンセリングを受けようと思ったときに、どのような点に注意をすれば良いのかみてみましょう。
1. 夫婦やパートナーで遺伝カウンセリングを受ける
私たちが想像している以上に、遺伝カウンセリングを受けるには相応の緊張やストレスがかかります。
それらの緊張やストレスで感じる負担を少しでも減らすために、妊婦である女性一人が受けるのではなく、夫婦やパートナーが一緒に受けることが何より大切になります。
また、NIPTの結果、その後の選択や決定をするときにも、二人で遺伝カウンセリングを受けることが、お互いの意思決定を支えることになります。
2. 遺伝カウンセリング後の意思決定は自律性が求められる
遺伝カウンセリングにおける専門医や遺伝カウンセラーの役割は、NIPTを受ける夫婦やカップルの意思決定を支えるような情報提供や結果に対する理解の仕方の支援などです。
決して、NIPT後の意思決定を代わりにしてくれるものではありません。
NIPT後にどの選択肢を選ぶかの最終的判断は自分たちにあることを基本として、遺伝カウンセリングを受けることが求められます。
3. 信頼できる遺伝カウンセラーに不安・感情、疑問を隠さずに伝える
大切な判断を下す前の遺伝カウンセリングでは、決して受け身の態度だけではいけません。
染色体異常や倫理的なことなど、より複雑で多くの情報を理解し意思決定をするときの材料にするのです。
そのためには、積極的に疑問、不安や感情を表出し、まずは自分たちがNIPTやその結果に対してどんな考え方や立場があるのかを伝える努力が必要になります。
もちろん、遺伝カウンセリングを行う医療者も人間ですから、カウンセリングを受ける夫婦との相性もあります。
もし自分たちの気持ちが受け入れられていない、話を深く聞いてくれないなどの不満があれば、それを伝えることも大切です。
NIPTにおける遺伝カウンセリングの実際
NIPTの遺伝カウンセリングの目的は、検査を受ける夫婦やパートナーの不安や悩み・疑問を明確にし、問題がより解決しやすいように行動ができることを目的としています。
遺伝カウンセリングを実施するのは、臨床遺伝専門医もしくは認定遺伝カウンセラーとなります。両資格とも、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同で認定しています。
いずれの資格も専門医とカウンセラーがどのくらいいるのかの一覧を以下のホームページで確認することが可能です。
- 臨床遺伝専門医
臨床遺伝専門医制度委員会「全国臨床遺伝専門医・指導医・指導責任医一覧」 - 認定遺伝カウンセラー
認定遺伝カウンセラー制度委員会「認定遺伝カウンセラー制度について;認定遺伝カウンセラー名簿」
通常の遺伝カウンセリングは、30〜60分で行われているようです。
遺伝カウンセリングの費用は施設によって異なりますが、初回遺伝カウンセリングは4,000〜10,000円程度、NIPT検査費用は170,000〜200,000円程度となっています。
NIPT検査結果後の遺伝カウンセリングもまた別個に受ける必要がある場合は、その費用も加算されていきます。
実際のカウンセリングでは、現在の状況、既往歴、家族の状況、NIPT・遺伝カウンセリングを受ける目的などを遺伝カウンセラーに伝えていきます。
NIPT検査については、主に以下のような項目の説明が行われます。
- 対象の染色体疾患について
- NIPT検査結果の説明(結果をどう解釈するのか)
- もしNIPT検査で陽性となった場合、羊水検査が必要になること
最終的には、NIPTの結果を受けて自分たちが何を選択していくのか、そこに行き着くまでの医学的・遺伝学的な情報収集や見解を聞くこと、それに対して自分たちの意見や思いがどう変化するのか、しないのか、そこがポイントになるといえるでしょう。
NIPT認可外施設では、遺伝カウンセラーが常駐していない場合もあります。
NIPT認可外施設でNIPTを受ける際には、遺伝カウンセリングを受けられるのかどうか、もし受けたいと思った場合には、他の施設で遺伝カウンセリングが受けられるかを確認してみましょう。
国内で遺伝カウンセリングが受けられる場所
それでは、実際にNIPT・遺伝カウンセリングも含めて、どの医療機関で受けることができるのでしょうか。
現在では、NIPTは日本産婦人科学会の指針において臨床研究として認定されいる施設や認可外の施設で受けることができます。
以下のホームページ、全国遺伝子医療部門連絡会議にある「遺伝子医療実施施設検索システム」や『NIPTコンソーシアム』において、全国のNIPT実施施設を閲覧することができます。
また、「遺伝子・健康・社会」検討委員会のホームページでも平成30年7月時点でのNIPTに関する臨床研究施設一覧を公開しています。
認可外施設にも遺伝カウンセラーが配置され、遺伝カウンセリングを受けることもできます。
いずれに施設においても、NIPTを受ける夫婦やパートナーは十分で適切な検査の説明を受けることができる施設を選択することが重要になります。
おわりに
NIPTを受けると決めたら、認可施設でも認可外施設でも適切な診療、そしてできれば遺伝カウンセリングも同時に受けられるようにすることが望ましいといえるでしょう。
遺伝カウンセリングを含め、NIPTを夫婦やパートナーが納得して受けられるような環境が整っている施設を選択することが大切です。
参考文献
- 公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会 - 母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針,2019
- 胎児骨系統疾患フォーラム - 無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)について,「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」の遺伝カウンセリングの実際
- 全国遺伝子医療部門連絡会議