HUMEDITロゴ

難病1歳殺害未遂事件から見る出生前診断の意味とは

難病1歳殺害未遂事件から見る出生前診断の意味とは

遺伝性の疾患とは?妊娠中に出生前診断をもし受けていたら?受けられない場合はどのようにすればよいのか? などについて以下に詳しく説明していきたいと思います。

病気の遺伝性とは。また出生前診断を受けるための条件と、受けられない場合のケアはどのようなものがあるか。

遺伝性難病である1歳児の三男を殺害したとして、40代の母親が逮捕されるというニュースが注目されました。長男は発症していないが同じ疾患の保因者であり、次男は同じ疾患で亡くしていたため三男にも出生前診断を希望したが受けられなく、心の準備ができないまま出産を迎えました。

 遺伝性の疾患とは?妊娠中に出生前診断をもし受けていたら?受けられない場合はどのようにすればよいのか?

 などについて以下に詳しく説明していきたいと思います。

遺伝子とは

まず遺伝子とはどういったものか見ていきましょう。

私たち人間の体は約60兆個の細胞からできています。その細胞一つ一つの中に核が入っており、その核の中には46本の染色体があります。そのうち半分は父親から、残り半分は母親から受け継いでいます。 

その染色体には二重らせん構造のひものような「DNA」が折り重なって詰め込まれています。DNAは遺伝子を持つ本体となる物質で、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という塩基物質で構成されており、様々な順番で並んでいます。この並び方がヒトの個性を生み出す「遺伝情報」です。

遺伝により体質や顔つき、性格などが親から子へ伝わりますが姿かたちだけではなく疾患も遺伝子や染色体の変異によって起こることがあります。

遺伝子疾患ついて

遺伝子疾患とは染色体や遺伝子の変異によっておこる病気を指し、染色体異常症、単一遺伝子疾患、多因子遺伝の3つに分けられます。

染色体異常症

染色体全体や一部の染色体に含まれる遺伝子の過不足が原因とされていて、21トリソミー(通常、染色体は2本で対をなす(ダイソミー)であるが、21番目の染色体が3本(トリソミー)になること)によるダウン症候群などがあります。

単一遺伝子疾患

ある1つの遺伝子(単一遺伝子)の変異が原因とされており、子供の代の遺伝子に変異が起こる突然変異と親の代の遺伝子から引き継がれる場合があります。数千種類の疾患があり、遺伝子の異常のため根本的な治療は困難とされており、成人してから発症する疾患もあります。

多因子遺伝子疾患

糖尿病やアルツハイマー型認知症などほとんどの疾患の原因に関与しています。環境と遺伝の両方からの影響で発症するため、多くの場合は予防により発症を抑制することができます。

遺伝子解析によって何がわかるか

遺伝子は両親からだけではなく祖父母などから引き継がれる場合もあり、突然変異によって生じる場合もあります。遺伝だけがすべてではなく原因不明ですが前に染色体異常の赤ちゃんを産んだ場合、次の妊娠で同じ染色体異常の赤ちゃんが産まれる確率は同じ年齢の女性が同じ症状の赤ちゃんを出産する確率より数倍から数10倍高くなると考えられています。

妊娠中の遺伝子解析は妊娠前半期に行う出生前診断の一部(NIPTや羊水検査など)を指します。

遺伝子解析とは先天異常、染色体の数的異常、遺伝子の変異に基づく病気など関する検査であり、妊娠中に胎児に異常の可能性がある場合に正確な病態・診断をする目的で行われる検査を指します。

そのため妊婦さんまたはパートナーのどちらかが染色体異常の保因者であることまたは発病はしていないが保因者であること、過去に異常症がある子の出産・妊娠歴があることなど検査に条件が必要とされています。

また診断には多くの過程が必要とされ、個人の全治療歴、家系、各器官の検査データなどを細かく収集したうえで専門的な訓練を受けた医療スタッフによる診断と経過観察が必要とされます。受けるにあたってどういったことが必要とされるのか見ていきましょう。

出生前診断について

出生前診断とは妊娠中に行われる一連の検査を指します。胎児の診断を目的とし、妊娠の有無や胎児の生存、向き、位置の確認をしたり前置胎盤など母体が危険にさらされていないかなどを調べます。

また成長の経過と共に先天性疾患の一部(形態異常や染色体異常など)を調べることができます。特にNIPTでは早い時期から検査を受けられることや少量の血液検査により死産や流産のリスクが少ないことから近年話題となっています。

認可の機関で検査を受けるには

  • 出産時年齢が35歳以上
  • 血清マーカー検査や胎児超音波検査で胎児に染色体疾患の可能性があった妊婦さん
  • 以前染色体疾患をもつ赤ちゃんを妊娠または出産したことのある妊婦さん
  • 両親のいずれかに染色体異常の方がいる

などといった条件のいずれかを満たすことが必要とされています。

出生前診断の目的として胎児に異常があった場合の心構え以外に妊娠を中断するか継続して出産後に医療機関に託すかの2択でしたが、近年では「胎児治療をする」という考え方もあります。

胎児治療とは

国内で受けられる医療機関はまだ数が多くなく限られていますが、出生前診断により異常が出た場合、何もしなければ子宮の中で胎児が亡くなったり生まれてすぐに亡くなるような病気を母体を介して子宮内の胎児に対して行う治療です。1960年代に胎児診断が発展すると共に開発され、治療には大きく分けて母体を介して輸血・輸液・薬物を投与する内科的治療と子宮切開や母体皮膚切開により胎児に直接治療をする外科的治療があります。現段階ではすべての疾病に対してではないですが、先天性の心疾患や水頭症、双胎間輸血症候群などが治療対象となっています。

手術が成功した場合妊娠の継続が可能になり、胎児の予後も良好となります。

出生前診断が受けられない場合とは

しかしながら染色体異常などの検査を受けられる施設は近年増加傾向にありますがどこの医療機関でも受けられるわけではないため、近辺に施設がなかったり予約がとれないことから検査を受けられないこと、発症していないが染色体構異常の保因者であることやまた検査対象外の染色体異常、遺伝子異常の診断目的では検査対象外となるなどのことから検査自体が受けられないといったこともあります。

万が一受けられない場合、遺伝カウンセリングを受けるという選択肢があります。

対象として

  • 染色体疾患が増加する高齢妊娠の人
  • 染色体や遺伝子の疾患を持つ子供を出産したことがある人
  • 自分や配偶者、その親族が遺伝子疾患をもっているので子供への遺伝が不安な人
  • 検査で染色体疾患の可能性が高いといわれた人
  • その他何らかの理由で遺伝学的な出生前診断を検討している人

またどこに相談すればよいのか、どのように支援を受ければよいのかも不明なまま悩んでしまう方も少なくありません。実際にカウンセリングを受けたが思ったような話ができなかった、わからなかったなど、カウンセリング面でも今後の課題が見受けられます。

現在はSNSや個人の育児ブログなど身近に情報が手に入りやすいため、実際に出向くことができなかったり何らかの理由で検査を受けられないときにそういった情報源を活用することも病気と向かい合う機会になるかと思います。

まとめ

遺伝子疾患は不治の病とされていましたが、近年医療の進歩により多くの疾病の原因が明らかになり、小児慢性疾患の患者全体の死亡数は減少し多くの患者さんの命が救われるようになりました。

出産後に受けられる支援は徐々に増え障害のある方でも暮らしやすい社会になりつつありますが、実際は世間に浸透していない面も多々あるかと思います。

1日でも早くわかりやすく受けやすい制度が広まり、また正しい知識と情報を得て向き合うことが大切です。

参考文献